2012年4月25日水曜日

狭心症・心筋梗塞をいかに克服するか


東京都老人医療センター
内科部長 大川 真一郎

1. 虚血性心疾患とは

 虚血性心疾患の「虚血」とは一般に身体のどこかで血流が不足し生体組織が必要とする酸素が欠乏する状態を意味します。高齢者の心臓病のうち最も重要なものは心臓の血流が不足する狭心症や心筋梗塞であり、これらをまとめて虚血性心疾患といいます。これは高血圧性心疾患、弁膜症と共に成人の心臓病の主要なものです。

 虚血性心疾患は欧米では長い間死因の第1位でしたが、わが国では脳卒中や癌のほうが死亡原因の主役でした。ところが、この頃日常生活の欧米化が進み、高齢者の人口が増え、高血圧の治療により脳卒中が減った一方で、急速に虚血性心疾患が日本でも増え、癌に次いで死因の第2位となっております。ここでは高齢者の虚血性心疾患の特徴と、それに対処する方法について述� �たいと思います。

 心臓の筋肉を養う血管を冠状動脈といいますが、これに粥状硬化といわれる器質的狭窄があるか、または機能的に血管が狭窄すると、心筋血流が減少し、心筋の酸素需要を十分に満たせず心臓は血流不足(心筋虚血)におちいります。その結果として胸痛を感じる状態が「狭心症」です。


腰、臀部、下に脚の前面の痛み

 狭心症には階段を上るなどの運動により起こるもの(労作型狭心症)、安静時にも発作がある安静型狭心症と異型狭心症があります。狭心症は可逆的な血流不足ですが、一方、冠状動脈の粥状硬化が高度で、そこに血の固まり(血栓)がつまると、その冠状動脈が養っている部分の心筋が死んで(壊死して)しまいます。これが「心筋梗塞」です。心筋梗塞は非可逆的な心筋の変化ですが、その程度はさまざまで、心筋の小部分が壊死しても自覚症状もなく過ごす軽いものから、次に述べる突然死の原因ともなる重症例までさまざまです。さらに最近、話題になってきていますが、冠状動脈硬化狭窄が高度にあるにもかかわらず心筋虚血の症状(胸痛)のない病態が少なから� �あることがわかり、この状態を「無症候性心筋虚血」といいます。

2. 虚血性心疾患と心臓突然死 (SCD)

 発症後1時間から24時間以内の外傷以外の原因による予期されなかった死亡を「突然死」と定義すると、我が国においてはその約半数が循環器疾患によるものと言われています。特に中高齢者の「心臓突然死SCD」の中では虚血性心疾患によるものが最も多いとされています。また高齢者で病院到着時に心肺停止していた(DOAと言われる)症例の死因を分析すると、やはり虚血性心疾患が最多であったことも経験されております。

3. 高齢者における冠状動脈の硬化狭窄の実態と臨床的特徴


猫は窒息

 冠状動脈は右冠動脈、左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝の3本(左冠状動脈主幹部を入れて計4本)から構成されています。これら3本の冠状動脈の硬化狭窄の程度を冠状動脈狭窄指数(CSI;満点15点)というもので表現すると、老人の心臓約1000例の統計では、平均CSIは9.1/15で、その内訳は軽度39%、中等度34%、高度は27%でした。全剖検例の22.5%に心筋梗塞が認められ、その平均CSIは11.2/15でした。冠状動脈狭窄指数が高い程、心筋梗塞の発症率が高頻度であると認められています。また高齢者の心筋梗塞は急性期でも胸痛を自覚する人は40%くらいで、逆に無痛性梗塞(無症候性心筋虚血の一つ)が稀でないこと、一般成人の梗塞に比べて後・下壁梗塞や心内膜下梗塞の多いこと、心破裂の頻度の高 いことなどが特徴とされています。また高齢者では冠状動脈硬化症が著明であるにもかかわらず狭心症を自覚する人は意外に少なく、その40%弱であり、一方虚血性心疾患以外の弁膜症や心筋症の人の一部にも胸痛を自覚する人がみられます。すなわち狭心症や心筋梗塞の最も重要な自覚症状である胸をしめつけられるような痛みが高齢者では感じられないことが多いのです。

4. 虚血性心疾患の診断


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 最も簡便な方法は心電図を取ることです。狭心症では労作型でも安静型でも胸痛発作時にはSTといわれる部分の低下を、急性心筋梗塞ではST部分の上昇とそれに次ぐQ波と呼ばれるものの出現、T波といわれる部分の陰性化を、過去に心筋梗塞の発作のあった陳旧性心筋梗塞ではQ波と陰性T波を認めます。冠状動脈の機能的狭窄(攣縮)による異型狭心症の発作時もST部分の上昇があり注意すべき点です。またマスター段階試験、自転車エルゴメーターやトレッドミルといわれる運動負荷をかけた心電図で初めて虚血性心疾患と診断されることもあります。急性心筋梗塞では採血によりこわれた心筋から流れ出した酵素の上昇がみられます。心臓超音波法(心エコー図)や心臓� �医学検査法も有用な診断法です。冠状動脈にX線に写る薬剤を注入して血管の形、太さなどを直接に観察する冠状動脈撮影法や虚血の部位を決定するのに有用な左室造影法も、その安全性が認められ、高齢者でも積極的に実施されるようになりました。

5. 虚血性心疾患の予防と治療


 虚血性心疾患の一般的予防法としては減量、節酒、減塩に努め、適度な運動と禁煙を実行することが大事です。勿論、虚血性心疾患の危険因子とされる高血圧や糖尿病、高脂血症があれば、これらも十分に治療しておくことが肝要です。狭心症の薬物療法としては胸痛時にニトログリセリンの舌下投与を試みます。日常の薬物療法としては亜硝酸薬(内服か貼付テープ)、カルシウム拮抗薬、β遮断薬などを使います。ニトログリセリンで治らない胸痛が続く時には心筋梗塞発作を考えねばなりません。急性心筋梗塞が発症したらすぐ集中治療室(CCU)へ入院して治療をうけるのが最善です。最近は高齢者でも頑固な狭心症や心筋梗塞には積極的に冠状動脈撮影を施行して狭窄部の診断を確実にし� ��適応があればバルーンで狭くなった血管を広げたり(経皮的冠状動脈拡張術;PTCA)、外科的バイパス手術(CABG)を行うようになりました。

 虚血性心疾患となっても色々な治療法がありますので病気の早期発見を心がけ、胸痛などがなくても定期検診を受けること、日常生活で「動悸」、「胸痛」など心疾患と関係のありそうな症状を感じたら積極的に医師の診察と検査を受けることが大切です。高齢になるほど病気の頻度は高いものと認識し、病気(「持病」と考えれば良い)と上手につき合って行くようお互い、心がけようではありませんか。


大川 真一郎 (おおかわ しんいちろう)
1939年生まれ。東京大学医学部卒業。医学博士。東京都老人医療センター循環器科医長を経て、91年より現職。高齢者における循環器疾患の臨床(診断と治療)に従事。高齢者心臓病の臨床・病理学的研究を進めている。特に刺激伝導障害、弁膜症、虚血性心疾患において研究成果を発表。



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