美容通信2003年9月号
子宮癌や乳癌の手術後(放射線療法を含む)の最大の合併症は、頑固なムクミ。この原因はリンパ浮腫です。私には関係ない! だって、健康だも〜んと思った貴女、仕事帰りに足が重くてだるい、夕方になるとブーツのファスナーが上がらないと苦々しくパンパンに張った足を擦った経験はありませんか? これも原因もリンパ浮腫。程度の差はあれ、決してムクミ(リンパ浮腫)は他人事なんかではないはず。
そこで、今月の特集は、
です。早めのお手入れが、秋冬ファッションを制する!?
リンパ浮腫のリンパって、そもそも何だがや?
先ず、人体の基礎からお話を始めましょう。
身体中に存在する全ての液体を体液と呼び、人間が生活して行く上で、吸いこんだ酸素、吸収した栄養分、免疫物質(身体を守る働きをする物質)や体温などを身体の隅々に運び、今度は老廃物などを身体の外に運搬する物質の運搬役を果たしているものです。体液の代表的なものとしては、血液があります。リンパ液もこの体液の一つです。
詳しく説明すると、動脈から栄養や酸素がいっぱい含まれた血液は、心臓のポンプ作用で体の隅々まで運ばれます。中枢から末端へ。動脈と言う名の幹線道路から、枝分かれしながら一般道(毛細血管)へ、更に路地(毛細血管の外)を通って、夫々のお家(組織中の細胞)に栄養や酸素を宅配する訳です。
宅配屋さんの血管は、心臓までの帰り道(静脈)、空のトラックを走らせるのは経営上無駄があり過ぎなので、組織で使われた水分だけをお持ち帰りします。ですが、トラック(静脈)の搭載許容から外れてしまった蛋白成分はトラックに当然乗れません。でも、何時までもお家に留まっている訳にもいかない居候さんですから、リンパ管と言う別ルートで帰路に付くって寸法です。この別ルートがリンパ管で あり、この中に入った液がリンパ液です
下の図の左下の図を見てみましょう。蛋白質や脂質が、細胞間質から、リンパ管に流入していますね。
リンパ管はだんだん合流し、最終的に左右の頸の付け根近くにある静脈に戻ります。リンパ液は、血液と同じ様に全身を流れていますが、循環する血液の流れとは異なり、心臓に向けて一定方向に流れているでしょ?これは、後で述べるマッサージの時、このリンパ液の流れに逆らわないように行う事が大切って言われる理由でもあります。
そして、大事なのはその構造。リンパ管は構造的に細くて薄く脆い膜から出来ていて、図の様に弁が付いていますよね? リンパ液がこの袋の部分に溜まって来ると、その圧で弁が開き‥と、弁領域が次々と収縮する事で、リンパ液は収縮波に 乗ってどんどんと心臓に向かって流れる訳です。(因みに、理学療法で使うマイクロウェルダーは、このリンパの収縮波(10〜12/分)を考慮して設計されています。) だから、マッサージの時は、優しくリズミカルに周辺の皮膚を刺激するのが大事なんです。そうすると、リンパ液が流れ易くなるって道理ですよね。
おっと、上の図で見逃してはいけないもう一つのポイントが、リンパ節です。リンパ管の所々には関所であるリンパ節があり、リンパは必ずその関所を通っていますね。この事は、乳癌や子宮癌の術後のリンパ浮腫を理解する上で非常に重要な事なので、しっかりと頭に叩き込んでおきましょう。
リンパ浮腫発生の原因を解明
浮腫(リンパ浮腫)とは、血液中の体液が血管外に濾出するなどして、血管外皮下組織に水分が過剰にたまった状態です。何かの切欠で、リンパ液の流れが悪くなって、澱んでしまうと、ムクミ(リンパ浮腫)になってしまいます。ずっとオフィスに座り放しで、パソコンをしていた。ずっと、立ちっ放しだった。乳癌や子宮癌の術後だけでなく、こんな状況は健康な貴女の体にも起こります。
<リンパ液の流れが悪くなる>=<蛋白質等をリンパ管内に上手に吸収し、留めておく事が出来ない>ので、必然的に蛋白質等は、血管外の皮下組織(組織間隙) に澱んでしまいます。動脈からの供給は変わらない訳ですから、蛋白濃度はどーしたってどんどん高くなって行きます。誤解されると困るんで、補足しておくと、(ちょっと細かいなぁと言われそうだけど)、組織間隙中に蛋白が多くなっただけでは、腕や足は浮腫んでは来ないんですよね。蛋白質は水分を引き付ける性質を持っているので、水を引き込んで、初めて浮腫になれる。分かり難い? う〜ん、塩付けしたシナチクを水を張ったボールに放り込んだ状態とでも言うのでしょうか。塩漬けのシナチク(=組織間隙)は、ボール(=血管)の水を吸い込んで、膨れ上がる(=リンパ浮腫)って構造です。
乳癌や子宮癌の術後のように、リンパ管の障害があると、シナチクの干からび度 が上がってる(熟成度が上がった?)のと同じで、組織間隙中の蛋白濃度は更に増加する事になり、水分も増え、リンパ浮腫度は健康体の方よりもずっと上昇します。つまり、
@乳癌や子宮癌で、リンパ節隔清をした人
癌の場合、放っておくと癌細胞がリンパ液を通じて、全身に転移をしてしまいます。そうなっちゃうと死んじゃいますから、そうならないように手術の時に癌細胞が留まっていそうなリンパ節を予め根こそぎ切除してしまいます。これがリンパ節隔清。
癌細胞を運ばせない為に、道路を爆撃して封鎖してしまった‥が、道路は蛋白質や脂質を運ぶにも利用されていましたから、運ぶにも運べません。溜まります。そして、溜まったタン� �クは水分を引きつけます(膠質浸透圧)ので、皮下組織には多くの蛋白質と水分が溜まり、硬い浮腫みになります。
A乳癌や子宮癌で、放射線療法した人
リンパ管は、元々細くて薄く脆い膜で出来ているのに、そこに放射線や抗癌剤等で攻撃を受けたもんだから、もう息も絶え絶え。働きは、劣って当然ですよね。
B@もAもした人
‥‥‥。
おおっ、そこで質問の手が上がった貴女! じゃあ、放射線療法だけの人はいざ知らず、リンパ節隔清しちゃった人には、幾ら治療をしても無駄なんじゃないですか? 道路が破壊されちゃったんだったら、もうどーしようもない� �じゃないんじゃないですか? 質問は、御尤も。でも、カブールでも、バクダットでも、人民はしたたかで強かったですよね。体も同じです。手術でリンパ節を切除しても、その代わりに新しいリンパ管(バイパス)が出来るんです。そのバイパスが、皮下組織の蛋白質を一所懸命排除してくれるようになるんです。確かに、急ごしらえの道路にアウトバーン並みの性能を期待してはいけません。元のリンパ管より、働きは劣って当然。その為、ちょっとした切欠で、バイパスは蛋白質を排除しきれなくなってしまい、リンパ浮腫が始まってしまいます。‥リンパ浮腫の治療は、如何にこのバイパスのご機嫌を取って、最大限に働かせ� �かなんですよね。分かったかな?
バイパスは、より皮膚表面近くに出来るので、マッサージをする時は、優しくソフトにが重要なんです。
ムクミ(リンパ浮腫)治療って、何をするの?
ムクミ(リンパ浮腫)の原因が解った所で、この攻略法と行きましょう。
その前に一言。 乳癌や子宮癌の術後(放射線治療を含)の患者さんの5%程度は、ある日ジワジワとこの合併症に気付き、その症状の進行に驚き、苦しむと言う構造に陥ってしまいます。私も、手術して2年位たった時かな、ある日気付き、日に日にと言うか、どどど〜っと段階的に症状が悪くなり、リンパ管炎を繰り返し、又悪くなり〜のの、ドツボのラビリンス。婦人科の主治医は、<偶になる人がいるんですよね。あんまり無理をせずに、足を上げておいて下さいね。圧迫してますか?>位の反応� ��<どーしたら、楽になるか?> その一心で、嵌ってしまった<リンパ浮腫>。超マイナーな分野過ぎて、医者仲間にすら、<そんなもん、やってドーするの?>と呆れられつつも、必死でしたね。背に腹は代えられぬ‥。同じ悩みを抱える患者さんと、2人3脚で頑張って行きたいなと思っています。一緒に治して、楽しく人生を送りましょうね。見返してやるって言う訳じゃないんだけど、<命が助かったんだから>なんて、人の人生をまるで終わったみたいに、一括りにされちゃたまりませんから。癌からがホントの人生の始まりです。付録なんかの人生じゃないんですから、ね。プン! 鼻息が荒くなった所で、本題に入りましょう。
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